ゲーム理論の出発点の論文の題は、「みんなで遊ぶゲームの理論」だった

6歳で父と古代ギリシャ語の冗談を言い合った天才ノイマンが、1928年に「みんなで遊ぶゲーム」の論文で示した、ゲームで損をしない手の選び方を、じゃんけんで読む。
家にお客さんが来ると、男の子が呼ばれる。
電話帳の適当なページを開く。1、2度、目を通す。すると少年は、そこに載っている名前と住所と番号を、上から順に、すらすら言ってみせる。
宴会芸は、これで決まりだ。
この少年が、のちに「ゲーム理論」の出発点をつくる人になる。
6歳の冗談は、ギリシャ語
ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)。1903年12月28日、ハンガリーのブダペストで生まれた。
ドイツ語とフランス語の家庭教師について学び、6歳のときには、父親と、古代ギリシャ語で冗談を言い合えた、と伝記は書いている。
6歳の冗談が、古代ギリシャ語。どんな冗談だったのかは、さすがに残っていない。気になる。
1933年には、アメリカのプリンストン高等研究所が、できたばかりのころに迎えた、最初の6人の数学の教授のひとりになった。世界の頭脳が集まる場所の、最初の6人だ。
1928年、「みんなで遊ぶゲーム」の論文
その5年前の1928年、ノイマンは1本の論文を発表した。題は、ドイツ語で「Zur Theorie der Gesellschaftsspiele」。
「Gesellschaftsspiele」は、人が集まって遊ぶゲームのこと。日本語にすれば、「みんなで遊ぶゲームの理論について」といったところ。数学の論文の題にしては、ずいぶん楽しそうだ。
載ったのは、数学の専門誌「Mathematische Annalen」の100巻。この論文で示されたのが、「ミニマックス定理」だった。
結局、どうすれば勝てるのか
ゲーム理論と聞くと、「必勝法が分かる理論」と思いたくなる。でも、ミニマックス定理が言っているのは、ちょっと違う。
言っているのは、こういうことだ。
2人で遊ぶ。ひとりが得をすれば、もうひとりが同じだけ損をする。そんなゲームには、かならず「相手がどんな手で来ても、これ以上は損をしない」という選び方がある。
じゃんけんで考えてみよう。
グーばかり出すと、パーを出す人に、負け続ける。パターンを読まれたら終わりだ。では、グー・チョキ・パーを、3分の1ずつ、でたらめに出したらどうか。相手が何を出してこようと、長い目で見れば、勝ちも負けも半々になる。読まれようがない。
つまり、これは「必ず勝つ方法」ではない。「絶対に、カモにされない方法」だ。
では、いつ勝てるのか。相手が、この「でたらめ」から外れたとき。たとえば、相手が最初にグーを出しがちなら、こちらがパーを出せばいい。相手が間違えたぶんだけ、こちらが勝つ。
勝ち方ではなく、負けない土台を、数学で言い切った。ここがすごい。それまでは、ゲームは「勘と経験」の世界だった。
遊びから、経済と世界へ
1944年には、経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンと一緒に、『ゲームの理論と経済行動(Theory of Games and Economic Behavior)』を出した。ゲームの考え方を、経済の世界に広げた本で、ニューヨーク・タイムズが1面で取り上げた、という。
遊びの理屈は、いつのまにか、お店どうしの値段の競い合いや、国どうしの駆け引きを考える道具になった。
この分野からは、のちにノーベル経済学賞を受けた人が、何人も出ている。たとえば、映画にもなった数学者ジョン・ナッシュ(1994年)。電波の周波数を割り当てるオークションの仕組みを考えた、ミルグロムとウィルソン(2020年)もそうだ。ゲームの理論は、いまも、世の中の仕組みの裏側で働いている。
朝まで飲んで、8時半に講義
そんな人が、パーティーの好きな人でもあった。同僚のアイゼンハートは、「パーティーに明け方まで出て、そのあと、8時半に講義ができる人だった」と語っている。
数学者のウラムは、彼が少し下品な笑い話をとても好んだ、と書いている。
天才と呼ばれる人が、意外と、飲み会で笑っている。こういう話は、嬉しくなる。
遊びを、本気で考えた人
ノイマンは、1957年2月8日、アメリカのワシントンで亡くなった。53歳だった。
遊びを、ただの暇つぶしと思わなかった人がいた。そう思うと、じゃんけんの1回も、少しだけ特別になる。
次にじゃんけんをするときは、グー・チョキ・パーを、気ままに出してみてほしい。それが、いちばん負けない出し方だ。
出典
- MacTutor(セント・アンドルーズ大学)「John von Neumann」
- Wikipedia「Minimax theorem」(1928年の論文の題・掲載誌)
- Wikipedia「John von Neumann」(1944年の本、人柄の逸話)
情報確認:2026年10月