最初のウェブカメラと呼ばれるカメラは、研究室のコーヒーポットを見ていた

1991年、ケンブリッジ大学の廊下。階段をのぼったのに、ポットは空っぽ。そんな小さな「ぐったり」から、世界中の人が見る1台のカメラが生まれた、最初のウェブカメラと呼ばれる話。
階段を何階分ものぼって、ポットの前に着く。空っぽだった。
そんなよくある「ぐったり」が、思いがけない技術のきっかけになった。
研究室の廊下のポット
舞台は、イギリスのケンブリッジ大学のコンピュータ研究所。「トロイの部屋(Trojan Room)」と呼ばれる部屋の外の廊下に、みんなで使うコーヒーマシンがあった。
近くで働く研究者は15人ほど。「コーヒークラブ」を作って、コーヒーを分け合っていた。
ただ、階の違う人は、階段をのぼってポットまで行く。着いてみると空っぽ。トロイの部屋で夜通し作業するプログラマーたちが、いれたてのコーヒーを先に飲んでしまうことが多かったからだ。
見に行かずに見る
1991年、ポットにカメラが1台取りつけられた。実験用の金属のスタンドにカメラをのせて、配線は床の下を通し、部屋のコンピュータにつないだ。作るのにかかったのは1日ほどだったという。
ポール・ジャルデツキーが、数秒おきに画像を取り込むプログラムを書いた。クェンティン・スタッフォード=フレーザーが、その画像を画面のすみに小さく出すプログラムを書いた。
画像は白黒(グレースケール)で、1分に3回ほど新しくなる。
これで、階段をのぼる前に画面のすみを見れば、コーヒーが残っているか分かる。
インターネットへ
最初の仕組みは、まだ「ウェブ」のものではなかった。1992年にある雑誌のコラムがこのポットを取り上げたが、当時のブラウザは画像を表示できなかった。
それが変わったのが1993年。ブラウザが画像を表示できるようになり、12月にニューヨーク・タイムズが、ブラウザ「モザイク」の記事の中でこのポットをネットで見られるものとして紹介した。
のちに、研究所のダニエル・ゴードンさんとマーティン・ジョンソンさんが、ポットの画像をウェブで公開した。世界中の人が、廊下のコーヒーポットを見に来るようになった。
見た人は、何十万人とも何百万人とも伝えられている。
10年でおしまい
2001年、研究所は引っ越しをすることになった。ポットとカメラはそこで引退。10年間の「カルト的な人気」に幕を引いた、と雑誌は書いている。
一番長く働いたポットはネットのオークション(イーベイ)に出されて、ドイツの雑誌「シュピーゲル」が買った。いまはドイツ・パーダーボルンのハインツ・ニクスドルフ博物館に、ウェブカメラつきで常設展示されているという。
ちょっと面倒の先に
最初のウェブカメラと呼ばれるものが見ていたのは、ありふれたコーヒーポットだった。
大きな発明は、案外こんなふうに、ちょっとした「面倒」から始まる。
あなたのまわりの「ちょっと面倒」は、何の種になるだろう。
冒頭の画像は、イメージイラスト。
出典
- Quentin Stafford-Fraser「The Trojan Room Coffee Pot: A (non-technical) biography」(1995年5月)
- Quentin Stafford-Fraser「The Trojan Room Coffee Pot」(年表・ポットのその後)
- MIT Technology Review「Coffee Cam」(2001-06-01)
情報確認:2026年10月