ミモレットの皮には、チーズダニの仕事が入っている
ふつうのチーズでは払われてしまうダニが、ミモレットでは歓迎される。数年かけて皮をかじらせ、出荷前に空気とブラシで落とす、少し変わった熟成の話。

オレンジ色の、丸いチーズ
フランスに、ミモレットというチーズがある。
丸くて、切ると中は鮮やかなオレンジ色をしている。
少し珍しい色をしているだけで、見た目は、ふつうのチーズだ。
ところが、このチーズの皮と風味には、小さな虫が関わっている。
チーズダニ。
顕微鏡で見るような大きさの、ダニの一種だ。
アメリカの公共ラジオ局NPRは、2013年にこのチーズを取り上げ、ミモレット独特の皮と風味にはこのダニが関わっている、と伝えた。
ダニは、ふつう「困りもの」。ここでは歓迎される
チーズダニは、熟成させたチーズの表面にすみついて、表面に生える小さなカビを食べて暮らしている。
NPRによれば、多くの熟成チーズでは、ダニは業界にとってのやっかいものだ。見つけたら、そっとブラシで払い落とされる。
ミモレットでは、それが逆になる。ダニは、むしろ歓迎される。
数年のあいだ皮をかじらせて、売る前に、圧縮空気とブラシで落とす。
それでも、取りきれなかったダニが、少しは残るという。

ハーバード大学でチーズの研究室を運営している微生物学者のRachel Duttonさんは、ダニが皮をかじると、皮の表面積が増えて、空気にも触れやすくなると説明している。そうなると、ほかの微生物がはたらきやすくなるのだという。
ダニの役割は、皮だけではないらしい。2016年の研究は、ミモレットなどに特有の「レモンのような風味」が、チーズ自体の発酵ではなく、ダニが出す物質によるものだと結論づけている。
2013年、ダニの数でチーズが止まった
そのミモレットが、2013年、アメリカで小さな騒ぎになった。
NPRが2013年5月に伝えたところでは、アメリカのFDA(食品医薬品局)が、1トンを超えるミモレットを、アメリカに入れずに止めていた。
FDAの担当者によると、公式な上限はないが、目標値は、1平方インチ(約6.5平方センチ)あたり6匹以下だった。NPRは、これをミモレットにとって「ほぼ不可能に近い基準」と書いている。
ミモレットの大手生産者、Isigny社の北米担当のBenoit de Vittonさんは、「ダニのせいで、人が食べるのに適さない、と言われた」と話している。
一方で、Duttonさんによれば、ダニによるアレルギーの報告はあるが、それは大量のダニに触れた人に限られているようだ。
フランスでは、ミモレットを支持する声が、ラジオや動画、SNSでも広がったという。
ここまでは、NPRが2013年5月の時点で伝えた話だ。この続きは、ここでは追っていない。
「チーズは、生きている」
Duttonさんは、笑いながら言う。
「チーズは、まさに生きている」
カビ、細菌、酵母、そしてダニ。そうした生き物たちのはたらきが、チーズをつくっている。
パンも、ヨーグルトも、ワインも、さまざまな微生物の発酵でできている、とDuttonさんは続ける。
NPRは記事を、こう結んでいる。フランスの多くの人にとって、ミモレットは、記憶と、家族と、故郷の味だ。そして、ダニも一緒にいる。
知らなくても、困ることはない。
でも、次にミモレットを見かけたら、あの皮のことを、ちょっとだけ思い出すかもしれない。
出典
- NPR The Salt「Tiny Mites Spark Big Battle Over Imports Of French Cheese」(2013年5月11日)
- Brückner A, Heethoff M.「Scent of a mite: origin and chemical characterization of the lemon-like flavor of mite-ripened cheeses」Experimental and Applied Acarology(2016年)
情報確認:2026年10月